大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和27年(ワ)1320号 判決 1954年2月27日

主文

被告中部罐詰株式会社は原告に対し金二百三十一万二千三百六十四円八十銭及びこれに対する昭和二十六年二月七日以降右完済に至るまで年六分の金員を支払え。

被告吉野東市、同川口仲三郎、同村上忠七、同大口源兵衛、同伊藤清正、同神藤嘉一、同古川武男、同高坂秋三は原告に対し連帯して金二百万円及びこれに対する昭和二十四年十一月五日以降右完済に至るまで百円につき日歩金四銭の金員を支払え。

被告笹原元吉に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告笹原に関する部分は原告の負担とし、その余の被告等に関する部分はその余の被告等の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り原告において被告中部罐詰株式会社に対して金八十万円、その余の被告等に対し各金三十万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨及び被告笹原に対し主文第二項掲記被告等に対すると同趣旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は食料品配給公団法に基き設立され、公団経済安定本部総務長官の定める割当計画及び配給手続に従い、味噌醤油その他の食料品の適正な配給に関する業務を行うことを目的とし、食料品の一手買収及び一手販売をなすことを業とするものであるところ、食料品配給公団法第三十一条の規定に従い昭和二十五年四月一日解散し目下清算手続中のものであり、また被告中部罐詰株式会社は被告吉野、同川口、同村上、同大口、同伊藤、同神藤、同古川、同高坂、同笹原の九名が発起人となり同二十四年十一月五日成立した資本金二百万円(全額払込済)の会社で罐詰製造用原料資材の売買及び委託売買その他一切の食料品並びに調味料の売買、食料品の輸出入等をなすことを目的とする株式会社であるところ、

第一、原告は被告会社に対し代金は即時払の約束を以て、

(一)  昭和二十四年十一月五日(イ)家庭用配給マーマレード百函、単価三千百一円、計三十一万百円、(ロ)鉄鋼労務者用鮪味付十函三十六罐(但し同年十二月二十八日うち二函返品)単価四千八百円、計三万三千二十五円四銭。

(二)  同年十二月十三日鉄鋼労務者用マーマレード三十函、単価三千百一円、計九万三千三十円。

(三)  同年十二月二十八日福神漬一函金三千六百三十円。

(四)  同月三十一日(イ)莓ジヤム外単価三千二百二十九円のもの一函単価三千百一円のもの八函、計二万八千三十七円、(ロ)魚肉団子味付単価二千五十六円のもの五函、単価千五百十七円のもの五函、計一万七千八百六十五円。

(五)  同二十五年一月十六日鯨味付千四百九十九函四十五罐(同年三月三十一日うち四百三十八函三十三罐返品)単価二千九百八十六円、計三百十六万八千八百九十二円四十銭。

(六)  同年一月三十一日松茸水煮二罐計六千九百四十円。

を売渡し、合計金三百六十六万千五百十九円四十四銭の売掛代金債権を有し、更に、

(七)  被告吉野は昭和二十四年十月三十一日未だ成立しない被告会社名義を以て原告から家庭配給用海苔佃煮十五函、単価三千九百五十八円、計五万九千三百七十円を買受け、その後同年十一月五日被告会社成立後被告会社においてその債務を引受け、

(八)  被告吉野は訴外中部食品株式会社名義を冒用して原告から罐詰代金合計金百七十五万八千七十六円九銭を購入し、被告会社に引渡し、その後真実の買受人である被告会社において債務を引受けたが、そのうち鱈場蟹フレーク七函五十八罐、単価一万千七百八十九円、計金八万九千六百四十五円四十銭及び密柑百十六函、単価千二百五十七円、計十四万五千八百十二円を返品した。

そこで原告は被告会社に対し右(一)乃至(八)合計金五百二十三万八千五百八円十三銭の売掛代金債権を有するものであるが、そのうち被告会社は昭和二十四年十二月三十一日より同二十六年二月六日に至る間において数回に亘り合計金二百九十一万千百四十三円三十三銭を入金し、また原告は金二万円を値引したので差引合計金二百三十一万二千三百六十四円八十銭の債権を有するところ、被告会社はその支払をなさないので、原告は被告会社に対し右残債権及びこれに対する最終の内入弁済の日の翌日である昭和二十六年二月七日(原告は一月六日と主張するが二月七日の誤記たること主張自体より明らかである。)以降完済に至るまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める。

第二、被告会社は全額払込済と称する資本金二百万円については、被告吉野個人名義を以て訴外株式会社第一銀行から一時金二百万円を借りうけ、恰も株主から株金全額の払込があつたように仮装し会社の設立登記を経由したものであつて、現実に右資本金二百万円は全然その払込がなされていない会社であり、被告吉野等九名は被告会社発起人として未払込金額二百万円の払込及びこれに対する右株金払込期日の翌日である昭和二十四年十一月五日以降右払込に至るまで被告会社定款所定の日歩四銭の遅延損害金の支払をなすべき義務があるところ、被告会社は営業不振で債務超過の状態であり、第一に記載の如き支払債務を弁済する資力がないのにもかかわらず右の払込請求をなさないので、原告は前記債権を保全するため被告会社に代位して、被告吉野、同川口、同村上、同大口、同伊藤、同神藤、同古川、同高坂及び同笹原に対し連帯して右未払込株金二百万円及び前記昭和二十四年十一月五日以降右完済に至るまで日歩四銭の遅延損害金の支払を求める。

かくて本訴請求に及んだと陳述し、被告等の主張事実を否認し、仮りに被告川口、同村上、同大口、同伊藤、同神藤、同古川、同高坂、同笹原等主張の如く発起人としての前記株金の連帯による払込義務がないとしても、原告は同人等に対し商法第百九十八条に従つて前記株金二百万円及びこれに対する昭和二十四年十一月五日以降日歩四銭に相当する金員と同額の損害賠償請求権の連帯支払を求めるものであると述べた。(立証省略。)

被告中部罐詰株式会社代表者及び被告吉野東市は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中第一の(八)の取引及び債務引受の事実を否認するがその余の事実は認めると述べた。(立証省略。)

被告川口、同村上、同大口、同伊藤、同神藤、同古川、同高坂、同笹原等八名(以下単に被告等八名と称する)訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、

一、本案前の抗弁として、原告公団はかつて清算手続中のところ昭和二十六年三月三十一日清算手続を結了し、残余財産を国に承継して消滅したから、もはや債権債務の主体となりえないのであつて、右清算公団を原告とする本訴につき当事者適格を有しないものである。従つて本訴は不適法である。

二、本案の答弁として、原告主張事実中原告の営業目的、配給機構清算公団なること及び被告村上、同笹原を除き其の余の被告等は被告会社が原告主張の日にその主張の如き内容で株式会社として設立登記を経由したことは認めるが、被告会社が原告に対しその主張の取引その他により債務を負担することは不知、その余の事実はすべて争うと述べ、被告等八名の被告会社に対する株金払込義務の存否について、

(一)  被告会社は昭和二十一年十一月五日設立登記を経由しているが、その実体は未だ設立行為を履践していないので全然存在しないものである。即ち被告吉野が被告八名の被告会社定款及び同株式引受書に押印のあるのを奇貨として、本人等の予期しない株式数を記入し創立総会の招集通知は勿論その開催をもなさず、恰も創立総会を開催して創立事項の報告をなし、取締役、監査役等の選任を了した如き文書を作成し、被告等八名不知の間に登記手続をなしたもので被告会社は設立手続の重要部分の殆んどを欠いているから、その設立は無効というよりも会社は不成立、不存在というべく、会社が成立したことを前提とする被告等八名の株金払込義務はありえない。

(二)  かりに被告会社が適法に成立したとしても、被告川口、同村上、同大口、同伊藤、同神藤、同古川、同高坂等が保証人となつて被告吉野が訴外株式会社第一銀行より借入れた資金二百万円を以て全株式の払込金に充当したから未払込株金は存在せずたとえその後被告吉野が被告会社の資本金二百万円についてこれを右訴外銀行に返済したからといつて、既に全株金が払込済であることには何等の消長を来さないのであつて被告会社発起人たる被告等八名が未払込株金について更に責を負うことはありえない。

(三)  次に、かりに右未払込株金の払込義務があるものとしても、被告川口、同伊藤、同神藤、同大口、同村上等の株式取得は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律に違反する即ち被告会社の営業目的は罐壜詰製造用原料資材の売買及び委託売買その他一切の食料品並びに調味料の売買等であるところ、

(イ) 被告川口は被告会社設立前より引きつづき訴外愛知トマト株式会社の代表取締役であつて、同会社は罐詰類の製造販売、卸売等をその営業目的とし、

(ロ) 被告村上は被告会社設立前より引きつづき訴外株式会社丸上の代表取締役であり、被告神藤は同会社の取締役であつて、同会社は食料品罐壜詰製造販売等を営業目的とし、

(ハ) 被告伊藤は被告会社設立前より引きつぎき訴外天狗罐詰株式会社の代表取締役であつて、同会社の営業目的は食料品の罐壜詰の製造販売を業とするものであり、

(ニ) 被告大口は被告会社設立前より訴外大口物産株式会社の代表取締役であつて、同会社は食料品の罐壜詰類の販売業を営業目的としている。

等により、被告川口、同神藤、同伊藤、同大口、同村上等は被告会社と国内において競争関係にある前記各訴外会社の役員として、被告会社の株式を取得し又は所有することはできないので、たとえ右被告会社の発起人として未払込株金について払込義務を負担するとしても、その結果は被告会社の株式を取得することになり強行法規たる私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第十四条第三項に違反する結果となるから原告は右被告等に対しかかる強行法規違反を招来するが如き請求をなしえないというべく、従つて右被告等は被告会社の発起人としての責任を負うべきものでない。

と述べ、更に原告主張にかかる原告公団と被告会社との取引について、

(四)  その主張にかかる第一の(一)乃至(八)は訴外中部食品会社に対する取引か、もしくは被告吉野個人に対する取引である。

(イ) 即ち原告公団は当時登録業者に対して配給手続に従つて商品の販売をなしていたものであり、被告会社は原告公団における登録業者でなかつたから原告公団と取引が行われる理由がなく、又当時原告公団中部支局長たりし被告吉野は訴外中部食品株式会社と共謀の上実際には被告吉野の個人取引であることを了承の上で右訴外会社よりその名義を借り恰も右訴外会社が買主となるかの如く装つてなされた取引であり、右取引の責任は訴外会社及び被告吉野がこれを負担するものというべく被告会社は取引の当事者ではない

原告主張にかかる第一の(七)及び(八)の取引については右は原告の主張自体より明らかなる如く被告会社設立前右訴外会社名義でなされた取引であつて、少くとも右第一の(七)及び(八)の取引は被告会社の取引でないこと明らかである。

(ロ) 而して原告は右第一の(七)及び(八)の取引は被告会社において債務の引受をなした旨主張するが、かかる債務引受の事実は存在しないし、またかりに被告吉野が被告会社の代表者として吉野個人の右債務を被告会社において引き受けたとしてもそれは自己契約又は双方代理行為であつて無効の引受行為であり、被告会社はその債務を引受けたことにはならない。

(ハ) かつまた、原告主張にかかる第一の(一)乃至(六)の取引について右(イ)の主張が理由がないものとしても、被告会社の債務は昭和二十四年十一月十五日以降同二十五年三月三十一日まで差引合計金三百六十六万千五百十九円四十四銭であるところ被告会社は昭和二十四年十二月三十一日金三十万円同二十五年二月二十三日金八十万円、同年五月二十九日金十五万円、同年六月二十九日金三十万円、同年七月二十七日金七十六万六千八百三十六円十三銭、同年同月三十一日金三万九千六百円、同年十月二日金六万三千百七円二十銭同年同月九日金七万円、同年同月十三日金五万七千六百円同年十一月九日金七万円、同年十二月十一日金八万円、同年同月二十二日金二千円、同二十六年一月六日金十万円、同年同月二十三日金二千円、同年二月六日金十万円、外に金十万四千円、合計金三百万五千百四十三円三十三銭を支払い、残金六十五万六千三百七十六円十一銭の債務が存在するに過ぎない。従つて原告公団が被告会社に代位して被告等八名に対し未払込株金額を請求しうるとしても右残金の範囲においてのみ請求しうるものである。

と述べた。(立証省略。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例